ご挨拶
フランス語への招待
皆さんはフランス語にどのようなイメージを持っているでしょう。流麗な言葉と思う人もいるでしょうし、多くの国際機関で公用語とされる外交の言語と思う人もいるでしょう。聞くと美しいけれど英語に比べて勉強は難しそう、と思う人もいるかもしれません。
実はフランス語は英語を学んだことのある人にとって学びやすい外国語の一つです。まず、表記で用いられるアルファベットが同じです。そして、語彙では英語で親しんだ単語をしばしば見かけるはずです。綴りに規則性が高いので、その規則さえ覚えてしまえば、意味が分からないのに発音できる、というのもフランス語ならではです。
それでも、Parisの発音は「パリス」ではなく「パリ」ですから、やはり英語とは異なる体系を備えた言葉です。そもそもフランス語とはどのような言語なのでしょうか。
インド・ヨーロッパ語族でロマンス諸語のひとつであるフランス語は、ラテン語の口語(俗ラテン語)から変化したフランス北部のオイル語を母体とするものと言われています。その使用はフランスにとどまらず、18世紀にはヨーロッパ各国の宮廷でひろく用いられ、19世紀のロシア上流階級ではフランス語で会話をするのが当たり前だったほどでした。しかし、その威光も20世紀の二つの世界大戦をへて陰りを見せます。そして、英語が世界制覇を遂げたかに見える21世紀になって、フランス語の栄光はもはや過去のもののように感じられるかもしれません。
しかし、フランス語の国際的な地位は失われたわけではありません。国際連合や国際オリンピック委員会のように、多くの国際機関において英語に次ぐ公用語としてのポジションをフランス語は守っています。フランス語を母語とする話者の数は現在、世界でおよそ1億3000万人(そのうちフランスの人口は6000万人)、総話者は2億3000万人になると言われています。ヨーロッパでは、フランスのほかにスイス、ベルギー、ルクセンブルグ、モナコが、北米ではカナダが、そしてアフリカ諸国ではガボンやコートジボワールなどの多くの国がフランス語を公用語としています。公用語に指定されていなくても、歴史的な理由からアルジェリアやチュニジア、あるいはレバノンのような国ではフランス語が広く使われています。また、モードやグルメはもちろん、科学や数学の分野でも、国を問わずフランス語が大きな魅力を放っています。このようにフランス語は、国際的な舞台に立ちたいと願う人にとって、いつもかわらずきらめく言葉なのです。
駒場キャンパスでは、ネイティヴ・スピーカーの教師による授業や、作文、会話表現の力を培う授業が多く用意されています。また、トライリンガル・プログラム(TLP)の授業に参加して高い運用能力を目指すこともできます。基礎文法を終えてしまえば、人権宣言から粋な短編小説まで、映画論からポスト・モダニズムを論じる現代思想まで、興味津々の文章との出会いが待っているのです。
「明晰ならざるものフランス語にあらず」と豪語する研ぎ澄まされた精神と、その鋭敏さに支えられた文化の奥深い魅力を窺い知ることこそ、フランス語学習の醍醐味にちがいないでしょう。さあ、この美しく魅力にあふれた言葉の海を皆さんも楽しんでみませんか。
イタリア語への招待
イタリア語の表現
Solo l’amare, solo il conoscere/ conta, non l’aver amato,/ non l’aver conosciuto.
「愛すること、知ることだけが/重要なのだ、愛したこと、/知ったことではなく」
ピエル・パオロ・パゾリーニ
イタリア語は音楽的と言われます。たしかに、オペラ発祥の地のことばで、母音は耳に優しく、子音が耳障りでもなく、おしゃべりを聞けば、音楽のように心地よくふりそそぐ音のシャワー。詩の朗読は、意味がわからなくてもそのリズムと音の響きが美しいと思えるかもしれません。日本語を母語とするひとには難しい発音、聞き取りにくい音もなく、話すのにはスピードになれるだけでよいでしょう。スペルも読みも簡単。文法は非常に論理的です。
ラテン語を母とする「ロマンス語」の一つで、フランス語やスペイン語とは姉妹です。14世紀のダンテ、ボッカッチョ、ペトラルカらのフィレンツェ詩人の言葉がモデルとされ、特に16世紀以降「共通語」となります。中世末・ルネサンス期のイタリアはヨーロッパにおける文化的先進地帯。そこで、「人間」を中心とする世界観、「ウマネージモ=ヒューマニスム」(人文主義)が生まれ、その言語は近代ヨーロッパの重要な文化と詩と外交の共通語の一つとなります。イタリアとそのことばの魅力は、古代から連綿と続くそのような豊穣な伝統にあります。そして、その伝統は死せる遺産ではなく、現代も生活に生きている歴史である点が、稀有だと言えるでしょう。
では、このことばを使えると、今日何か役に立つか?セリエ・アのインタビューがわかるようになり、通訳なしでサッカーのインタビューが理解できます。これで言語的な運動神経も鍛えられます。さらに、今までただ覚えさせられていた音楽用語のニュアンスが感じられ、楽器を演奏するひとは表現のはばが広がります。イタリアンを食べにいけばメニューがわかる、もしくはわかるふりができ、友人や恋人に感心され、食から生活と世界を変えようというスローフード運動の精神にも直接ふれて、おいしいものを文化として味わえ、社会運動にも敏感になるでしょう。
そして文化的な教養と、人文学の基礎が深まります。そもそも、スポーツ、音楽、芸術はイタリア発祥のものも多く、思想、歴史、デザイン、文学、美術(史)、映画(史)等の分野でイタリア語の知識と能力は必須もしくはとても役に立ちます。さらに、レオナルド、ガリレオを読めば、近代科学発祥のオリジンにふれることができます。自動車工学、船舶、天文学、科学史等も、イタリア(語)の得意分野なのです。ラテン語の直接的な「娘」にあたり、ギリシャ語源のことばが多く日常言語でも使われるので、イタリア語をまなぶことは、医学や自然科学をことばのオリジンから理解することにもつながります。
初修外国語としては07年に文科3類に開講されたもっとも若い言語です。東大にあってパイオニア精神に満ちたイタリア語クラスでこの古くて新しい言葉を学んだ卒業生たちは、駒場発の新たな文化を作り、今さまざまな分野で活躍をはじめているようです。授業は、駒場発教科書「イン・パルテンツァ」(文法)と「ピアッツァ」(読解テクスト)を中心に使います。